#588 世界一貧しい大統領

 5月も後半となり、最高気温が25度を超える日が増えてきました。九州南部は既に梅雨入りとなりましたが、沖縄・奄美地方よりも先に梅雨入りするのは史上初めてとのことです。今年も大雨に悩まされるのでしょうか。集中豪雨に充分注意する必要があります。
 さて、質素な生活ぶりから「世界で一番貧しい大統領」とも呼ばれてきた南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領が13日、亡くなりました。89歳でした。NHKは23年にムヒカ氏のインタビュー番組を放送しましたが、彼の政治や生き方に多くの人が共感しました。今日はNHKの記事からムヒカ氏の生き様を辿ります。
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『「世界で一番貧しい大統領」ホセ・ムヒカ氏が死去 89歳』
 ムヒカ氏は1935年に貧しい家庭に生まれ、貧困や格差に矛盾を感じて20代のころから反政府ゲリラ組織に参加し、軍事政権の下で10年以上刑務所に収監されました。
 ウルグアイが民主化した後、1990年代から左派の国会議員として活動し、2010年から5年間、大統領を務めました。
 大統領在任中も農場での生活を続け、そのつつましい生活ぶりから“世界一貧しい大統領”とも呼ばれ国民から親しまれてきたほか、大量消費社会を鋭く批判したスピーチは各国で翻訳され、日本でも人気を集めました。
 おととし行われたNHKのインタビューの中でムヒカ氏は、若い世代へのメッセージとして「今は多くの矛盾を抱えた不確実な過渡期の時代なのです。生きるための大義名分を見つけることが大切です。若い人は、これだということを何かひとつ持つのです」と語っていました。ムヒカ氏は晩年はがんと闘病し、最近は緩和ケアを受けていると伝えられていました。13日、オルシ大統領が、ムヒカ氏の死去をSNSを通じて発表しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250514/k10014805111000.html
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ムヒカ氏に関する次の記事もあわせて紹介します。

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『“世界一貧しい大統領” が語る「真の幸せ」とは?』
 大統領在任中も公邸ではなく郊外の農場で生活を続け、1国のリーダーとしては異例の質素な生活を貫いた、南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領。かつて“世界一貧しい大統領”と呼ばれましたが、「多くのものを必要とする者こそ貧しいのだ」と意に介しませんでした。そのムヒカさんに大統領を退任したあとのいまの生活ぶりや現代社会の課題、そして若者に向けたメッセージを聞きました。

<そもそもウルグアイってどんな国?>
 大西洋に面し、南米の大国、ブラジルとアルゼンチンに挟まれるように位置するウルグアイ。面積は日本の半分ほどで、人口はおよそ350万。首都モンテビデオに人口の3分の1以上が集中しています。

<“世界一貧しい大統領” ムヒカさんってどんな人?>
 モンテビデオ近郊の貧しい家庭に生まれたムヒカさん。幼い頃に父を亡くし、貧困や格差に矛盾を感じて20代の頃から反政府ゲリラ組織に参加。ゲリラ組織の指導者として活動し、何度も銃撃されたり拘束されたりしたこともあります。1972年から軍事政権が終わるまでの13年間は、刑務所に収監されました。
 民主化後は左派の政治家として活動し、1995年に下院議員に初当選。そして、2010年から5年間、大統領を務めた後に政界を引退し、現在は88歳です。
 知人からもらったフォルクスワーゲンの1986年型ビートルをいまも大事に乗り続けているムヒカさん。大統領在任中も農場での生活を続け、その質素な暮らしぶりから“世界一貧しい大統領”とも呼ばれていましたが、いまも当時と変わらない生活を送っているといいます。

(ムヒカさん)
 「わたしの生活は質素です。毎日少しずつ、1日に3時間から4時間、畑を耕しています。シンプルな暮らしの方が好きなのです。これは『多くのものを必要とする者が貧しいのだ。なぜなら、その限界を知らないから』という、古い哲学に基づいています。
 私たちは、欲求を満たすために、人生の時間を費やさなくてはなりません。もし“欲求”が無限に拡大するとしたら私たちには時間がなくなり、それだけで人生が終わってしまうでしょう。シンプルに生きる道を選ぶことで、より自由を得ることができます。強制されたものではなく、自分の好きなこと、選択したことに人生の時間を費やすことこそ“自由”なのです」

<幸せな生活を送るにはどうしたら?>
 大統領時代の国連演説で、現代の大量消費社会を「持続可能ではない」として、厳しく批判したムヒカさん。物質的な豊かさばかりを追求するあまり、私たちにとってかけがえのない人と人とのつながり、特にお年寄りを尊重する姿勢が失われつつあると懸念を示しました。

(ムヒカさん)
「私たち人間は集団で生活していて、1人では生きていけません。私たちは何百年、何千年もの間、何十人という大家族の中で生きてきました。
その中で、老人の役割はアドバイスをすることでした。子どもたちを世話し、教育する役割がありました。老人は歴史を知る、知恵袋として尊重されてきたのです。
例えば、ギリシャの詩を読むと、人々に最も期待されていたのは、“最強の王”ではなく、“最古の王”の演説だったことが分かります。彼は小さな島の王でしたが、最年長であり、したがって最も知恵がありました。知識を伝えてもらうには年配者や経験者に会いにいくこと以外に方法はありませんでした」
 「しかし、現代の家族はバラバラであり、やることが多いために時間がなく、高齢者の世話をすることができません。老人ホームに預けたり、別の施設で介護したりするようになります。
 人間は常に愛情を必要とし、愛し、愛される必要がありますが、こうしたことは世界中で起こっています。
最悪の罰のひとつは孤独です。これは現代の問題です。日本にも高齢者が多いので、きっと日本にも問題があると思います。現代の生活が抱える問題であり、私たちは老人の役割を見つけなければなりません」

<再生可能エネルギー100%を実現>
 ムヒカさんは大統領在任中、化石燃料や輸入に依存したウルグアイのエネルギーの改革に力を注ぎました。
現在、ウルグアイは、風力や太陽光、水力などの再生可能エネルギーで電力需要のほぼすべてを賄うことができる、世界でも数少ない国の1つです。

(ムヒカさん)
「私が農業相をつとめていたときに、大干ばつに見舞われ、値段の高い石油を使ったエネルギーの供給に10億ドル以上を費やしました。燃料を購入しなければならない人々にとって、エネルギー問題というのはそのようなものです。
風力と太陽光発電の可能性が浮上したとき、チャンスがあると思いました。国家的な合意を形成して、在任中にいくつかの風力発電パークを設置することができました」
 「(再生可能エネルギーは)最初は高いかもしれませんが、長期的には安くなる可能性があります。後戻りはせず、前に進むことが重要です。
 私たち人間は、エネルギーに関して、環境に負荷を与えるものではなく、環境に優しいものを探さなければなりません。なぜなら、私たち人間は地球上に80億人もいるからです。人間の活動が自然のバランスを変える可能性があり、その結果、私たちが苦しむことになるからです。ですから、私たち人間は節制し、持続可能な生き方を学び、地球上の生命の調和を維持することを学ぶ必要があります」

 ムヒカさんは当時、再生可能エネルギーで発電した企業や個人に対して、政府が20年間、電力を一定の価格で買い取ることを保証。そうした政策の結果、2005年にはゼロだった風力発電は現在、国内に700基以上設置され、国の発電量全体のおよそ3分の1を賄うまでになっています。

<ウクライナ侵攻は“人類の過ち”>
 ロシアによるウクライナ侵攻については、リーダーとして国を率いた経験から、厳しい言葉が返ってきました。

(ムヒカさん)
 「すべての人にとって非常に危険な過ちです。ロシアのとんでもない侵略であり、これはプーチン大統領の責任です。ロシア国民の責任ではなく、あくまでロシア政府の責任であり、政府と国民を混同すべきではないと信じています」
 「一方で、西側諸国も賢明な態度をとっていません。ドイツもフランスも、政府の無能に責任があります。私が若かった頃、世界は似たような危険を経験しました。ソ連がキューバに核兵器を運び込もうとしたとき、戦争寸前の混乱にありましたが、政治によって解決しました。交渉をしたからです」
 「戦争は一方が他方を打ちのめすか、政治的交渉によって終了するかの2つに1つです。ロシアを潰そうとすれば、核のボタンを押す手前まで追いつめることになり、そうなれば我々はすべてを失うおそれがあります。したがって政治的な交渉を模索する必要があります。それはロシアにウクライナの領土を与えるということではなく、国境でロケット弾などを発射しないことを保証するのです。交渉は終わりのない戦争よりもましですから。
 戦争は怒りではなく知性によって解決されます。ロシアの侵略を正当化するつもりはありませんが、NATOが拡大し続けてきたことも忘れてはいけません。出口を提案する道義的権限を持っている国のひとつは日本です。なぜなら、日本は唯一の被爆国だからです。それが日本の持つ歴史的な外交力です」

<未来の若者へのメッセージは?>
 最後に、未来に向けてこれから私たちはどう生きるべきか、特に若い世代が生きるために必要な心構えについて聞きました。

(ムヒカさん)
「われわれは時代の変わり目にいます。ひとつの世界が去り、別の世界がやって来ます。しかし去る者はまだ去っておらず、来る者はまだ来ていない。だからこそ、今は多くの矛盾を抱えた不確実な過渡期の時代なのです。
 小さなスマホを持って抽象的な虚構の世界を生き、新しい物を買うためだけにぼんやりと生きることもできます。あるいは、情熱という自分の人生に満足感を与えるもののために生きることもできます。若い人は科学や研究、スポーツ、さまざまな分野で挑戦ができます。文章を書くことも、絵を描くこともできます。サッカーでも良いのです。これだということを何かひとつ持つのです。
 もし買い物の代金を払うために働いて、働いて、年を取るまで働き続けたら、最後に大きな疑問が生じます。『私の人生は何だったの?』と。ですから、生きるための大義名分を見つけることが大切なのです」

<インタビューを終えて>
 一線を退いてもなお、当時と変わらない存在感を示すムヒカさん。現代社会や将来を担う若者たちに向けた、厳しくも温かいことばが印象的でした。シンプルな生活を貫くために、みずからの給与や年金の大部分は、自宅近くの農学校の建設のために寄付したということです。「多くのものを必要とする者が貧しいのだ。多くを求めれば人生の時間はいくらあっても足りなくなる」そう語ったムヒカさんの、自分の信じる生き方を貫く姿勢こそが、今もなお多くの人たちの共感を呼んでいるのだと思いました。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2024/02/06/37265.html
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 「世界一貧しい大統領」と言われたムヒカ氏の死は惜しまれるばかりです。彼の人生観や生きざまは各国の代表者に大いに参考になることでしょう。国のトップに立つ政治家はこうあるべきです。自分の私腹を肥やすことや、他国を侵略し破壊することしか考えていない指導者はムヒカ氏の対極にいます。彼らは人間的に本当に「世界で一番心の貧しい指導者」と言えるでしょう。
 指導者だけでなく、私達一般市民も人生で本当に何が必要なのかを一度じっくり考えてみる必要がありそうです。ムヒカ氏が言うように、欲望には限りがありません。一つの欲望を達成すると、また次の欲望が湧き出てきます。私たちは自分の生きている環境で不必要な欲望に追われるのではなく、自分にとって何が必要とされているか、一度立ち止まり考える必要があります。世界は今岐路に立たされています。世界が継続するか、破滅するかは現在の人類、特に指導者の考え方・生き方にかかっています。民主主義国家では優れた指導者を選ぶのは国民の義務です。私たちが後悔しないような指導者を選びましょう。

2025年05月18日