#373 新入生に送る言葉

 新年度を迎え、多くの大学では入学式が行われています。また昨年度に新型コロナの影響で入学式ができなかった新大学2年生に対して改めて入学式を挙行する大学も少なくないようです。確かに大学2年生は新型コロナのためにほとんど対面授業ができず、大半の授業がオンラインで行われ、また新しい友人をつくる機会も奪われ、大学生の中には退学した人もいます。今年度はそのような状況が少しでも改善されることを願っています。
 さてノートルダム女子大学の理事長を長い間務められた故シスター渡辺和子さんが多くの入学式式辞を残していらっしゃいますが、今日はその中の1つをご紹介したいと思います。もちろん中学生や高校生にも当てはまる内容ですが、大学生活は自らが主体的に行うことで、中学・高校と異なる面があります。また次の式辞はおよそ50年前のことですので、それを考慮してお読みください。

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『考える葦に』(昭和47年度入学式式辞 1972年4月)
 きびしい進学勉強の後の安堵感の中にも、皆さんには新しい環境への適応、従来と異なった勉強の仕方、教師、友人とのかかわり方など、数多くの不安があると思います。私たち教職員と在学生は、皆さんが一日も早く学校に慣れ、また大学生活になじんでくださることを願い、そのためにお役に立ちたいと思っています。
 普及したとはいえ、現在の日本ではまだ四人に一人しか大学進学が許されていません。その一人である皆さんは、したがって、「なぜ大学に学ぶのか」という点でははっきりした目的を持っているはずです。”皆が行くから私も行く式”で入学したとしても、または親の言いなりになってきたとしても、今日からは一人ひとりが大学に学ぶ意義を自分なりに見出し、達成してゆかなければならないのです。
 パスカルが「人間は一茎の葦にすぎない。それは宇宙の中でもっとも弱いものである。しかしそれは考える葦である」と言いました。大学は数多くの免許状、資格を出すことができます。しかし大学は決して職業訓練の場ではありません。それはまずもって、人間のもっとも人間らしい機能、すなわち「考える力」を練磨する道場であり、その明確な判断基づいて己の行為を選択する自由人を形成するところであります。
 英文、国文、家政、児童、食品、栄養と所属する学科は分かれていても、大学生として皆さんに共通して求められることは、一般教育課目にせよ、専門科目にせよ、授けられる知識に能動的に働きかけて、知識を知恵に、すなわち自分にとって価値あるものにしてゆくことです。これが考える力を付与された人間の特徴です。
 皆さんの四年間が自らの手によって意義あるものとなりますように。人間は価値あるものに取りかこまれている時幸せです。この大学にお学びになる皆さんの幸せは、利己的なものでなく、他人の幸せを願う心のゆとりと、神の前に生きる人の謙虚さによって特徴づけられていてほしいと思います。
 成人してゆく女性の美しさに加えて、考える力と、豊かな心と、謙虚さがこの四年間つちかわれるようにと祈ります。
(「あなただけの人生をどう生きるか」渡辺和子 (ちくまプリマ―新書より)
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 上記の文は女子入学生に向けての式辞ですが、文中にあります1972年当時、「四人に一人の大学進学率」が2019年には53.7%に上昇しています。また男女の進学率はそれほど差がなく、2018年は男性の大学進学率が「56.3%」であるのに対し、女性の大学進学率は「50.1%」と、ほぼ同数まで比率を伸ばしています。
(https://vanilla-ice.info/university-entrance-rate/)
 約50年前と比べて女子の大学進学率が飛躍的に伸びています。大学進学に関して、ほぼ男女同じということが言えます。
 また、シスター渡辺は「自由人」について同書の別の箇所で次のように説明しておられます。

……では、自由人というのは、いったいどういう人をさすのか。これもいろいろの考え方がありますが、皆さん方もおわかりのように、決して自分勝手な、好きなことをする人という意味ではありません。その言葉が示すように、自らに由(よ)ることができる人、自らに由る思考、行動、それのできる人であり、その責任を取ることができる人、他に由るのではなく、つまり、他人の言いなりになったり、他人への思惑に振りまわされたりする人でなくて、自分の内部に行動の理由、または信念を持っていて、自分の手で自分の人生築いていくことのできる人。これが、自由人の一つの解釈といっていいかと思います。…… (同書45頁より)

 シスター渡辺は長年ノートルダム女子大の理事長を務められましたが、シスターが残された多くの名文は、人々の心の中で今でも輝いています。当塾から2人の女子生徒が東京と千葉の大学にそれぞれ進学しましたが、本日のブログに掲載したのシスター渡辺のお言葉をそのまま2人に捧げたいと思います。

2021年04月04日