#283 人口の14%?

 ここ数日天気の悪い日々が続いています。雪空ということが言えれば真冬の気候になりますが、まるで春の菜種梅雨のような暖かい雨の日が断続的に続いています。例年の一番寒いこの時期には考えられないことです。これも地球温暖化の影響でしょうか。気象専門家はダイポール現象という表現を用いていますが、冬に雪が降りませんと春以降の全国的な水不足が懸念されます。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とならないように、すべての事柄において中庸が大切です。
 さて、本日のブログタイトルの「14%」の数字から何を連想できるでしょうか。この数字は『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著 新潮新書)の中に出てくる数字です。この本のタイトルと帯の部分に描かれた不釣り合いに”3等分”したケーキのイラストに惹かれて思わず買って一読した本の中に出てくる驚愕的な数字です。この本を読んでいらっしゃらない方に目次をご紹介します。
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第1章 「反省以前」の子どもたち
「凶暴で手に負えない少年」の真実/世の中のすべてが歪んで見えている?/面接と検査から浮かび上がってきた実態/学校で気づかれない子どもたち/褒める教育だけでは問題は解決しない/一日5分で日本が変わる

第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
ケーキを切れない非行少年たち/計算ができず、漢字も読めない/計画が立てられない、見通しがもてない/そもそも反省ができず、葛藤すらもてない/自分はやさしいと言う殺人少年/人を殺してみたい気持ちが消えない少年/幼児ばかり狙う性非行少年

第3章 非行少年に共通する特徴
非行少年に共通する特徴5点セット+1【/ 認知機能の弱さ 】見たり聞いたり想像する力が弱い「/不真面目な生徒」「やる気がない生徒」の背景にあるもの/想像力が弱ければ努力できない/悪いことをしても反省できない【/ 感情統制の弱さ 】感情を統制できないと認知機能も働かない/ストレス発散のために性非行/ “怒り"の背景を知らねばならない/ “怒り"は冷静な思考を止める/感情は多くの行動の動機づけである【/ 融通の利かなさ 】頭が硬いとどうなるのか?/BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)/学校にも多い「融通の利かない子」/融通の利かなさが被害感につながる【/ 不適切な自己評価 】自分のことを知らないとどうなるのか?/なぜ自己評価が不適切になるのか【?/ 対人スキルの乏しさ 】対人スキルが弱いとどうなるのか?/嫌われないために非行に走る?/性の問題行動につながることも【/ 身体的不器用さ 】身体が不器用だったらどうなるのか?/不器用さは周りにバレる/身体的不器用さの特徴と背景

第4章 気づかれない子どもたち
子どもたちが発しているサイン/サインの「出し始め」は小学2年生から/保護者にも気づかれない/社会でも気づかれない「/クラスの下から5人」の子どもたち/病名のつかない子どもたち/非行化も懸念される子どもたち/気づかれないから警察に逮捕される

第5章 忘れられた人々
どうしてそんなことをするのか理解不能な人々/かつての「軽度知的障害」は人口の14%いた?/大人になると忘れられてしまう厄介な人々/健常人と見分けがつきにくい「/軽度」という誤解/虐待も知的なハンディが原因の場合も/本来は保護しなければならない障害者が犯罪者に/刑務所にかなりの割合でいる忘れられた人々/少年院にもいた「忘れ られた少年たち」/被害者が被害者を生む

第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
褒める教育で本当に改善するのか「?/この子は自尊感情が低い」という紋切り型フレーズ/教科教育以外はないがしろにされている/全ての学習の基礎となる認知機能への支援を/医療・心理分野からは救えないもの/知能検査だけではなぜダメなのか「?/知的には問題ない」が新たな障害を生む/ソーシャルスキルが身につかない訳/司法分野にないもの/欧米の受け売りでは通用しない

第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える
非行少年から学ぶ子どもの教育/共通するのは「自己への気づき」と「自己評価の向上」/やる気のない非行少年たちが劇的に変わった瞬間/子どもへの社会面、学習面、身体面の三支援/認知機能に着目した新しい治療教育/学習の土台にある認知機能をターゲットにせよ/新しいブレーキをつける方法/子どもの心を傷つけないトレーニング/朝の会の1日5分でできる/お金をかけないでもできる/脳機能と犯罪との関係/性犯罪者を治すための認知機能トレーニング/被虐待児童の治療にも/犯罪者を納税者に
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 この14%は第4章と第5章に出てくるデータで、著者は次のように説明しています。
 「現在、一般に流通している『知能生涯はIQが70未満』という定義は、実は1970年代以降のものです。1950年代の一時期、『知能指数はIQ85未満とする』とされたことがありました。IQ70~84は、現在では『境界知能』と言われている範囲に当たります。知的障害と判定される全体の16%くらいになり、あまりにも人数が多すぎる、支援現場の実態に合わない、など様々な理由から『IQ85未満』から『IQ70未満』に下げられた経緯があります。ここで気づいて欲しいことがあります。時代によって知的障害の定義が変わったとしても、事実が変わるわけではないことを。IQ70~84の子どもたち、つまり境界知能の子どもたちは、依然として存在するのです。」
 著者は長年の非行少年に対する臨床心理士として非行少年の多くに認知機能の不足を指摘しますが、この「特別な」子どもたちだけでなく、一般家庭の子どもたちのうち、14%に何らかの欠点を持った子どもが存在することを指摘しています。特にクラスの中の下位5人程度に学習障害や問題行動を起こす生徒がいることを指摘しています。またこのような子どもが学校を卒業して世の中に出ると、「忘れられた厄介な人々」になると言っています。
 確かに最近ニュース等で知られています「あおり運転」をする人物には感情を抑えられない等の「普通でない」心理状態が見られます。この14%が正しければ私たちの周囲に高い頻度で問題行動を起こす人物が存在することになります。
 今回のテーマには様々な意見のあることは承知していますが、特に教育者や子供の保護者の方々に一読して頂きたい本です。

2020年01月26日