#596 なめられてたまるか!
参議院選挙まで1週間となりました。多くの立候補者が各地を回り、支持を訴えています。またテレビや新聞も毎日各政党の主張や論点を特集しています。そのような中で政治家の様々な失言が飛び出しています。先日「運のいいことに能登で地震があった」などと発言した自民党の鶴保庸介参院予算委員長が、批判を受けて委員長職を辞任する意向を固めたと一部メディアが報じています。常識で考えれば分かりますが、誰がこの発言を喜びますか。選挙直前の軽はずみな発言により、本人だけでなく所属している政党も迷惑がかかります。
まして一国の総理大臣が先日とんでもない発言をしました。「なめられてたまるか!」です。この発言をそのまま訳すと文化的な表現の違いはありますが「侮辱に耐えられない。馬鹿にするな。」の訳が可能です。この発言について深い憂慮を示している専門家がいます。前回のブログで引用した「ロシア政治経済ジャーナル」のブログを配信している北野
幸伯(きたのよしのり)さんです。今日届いたメールで彼はは次のように説明しています。
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『ロシア政治経済ジャーナルNo.2731 2025/7/13』
石破さん、参議院選挙前に覚醒したのか、トランプに、【 なめられてたまるか!!!!!!! 】と発言しました。アメリカ政府と関税交渉をつづけてきましたが。トランプは7月7日、「日本への関税を25%に引き上げる」旨の書簡を石破さんに送りました。赤沢さんがしょっちゅう訪米していましたが、「全然何の成果もなかった」ことが、バレてしまいました。金子恵実さんが、「まぁ選挙中なので威勢のいいことを仰ってますけど、舐められてしまうような状況を作っているのはご自身なのではないでしょうか」と辛らつなコメントをされています。この【 なめられてたまるか!!! 】発言、どうなのでしょうか?
<トランプを操る方法>
こういう強気な発言、トランプには逆効果です。もちろん、日本国民も、「よくぞいってくれました!」とは思わないでしょう。だいたいは、金子さんの「まぁ選挙中なので威勢のいいことを仰ってますけど、舐められてしまうような状況を作っているのはご自身なのではないでしょうか」というコメントをみて、「そのとおり!」と思うでしょう。
で、トランプさん。どういう人かというと、「自分のことを褒めまくってくれる人」が好きで、いうことを聞く傾向があります。わかりやすい例を。イスラエルのネタニヤフは、トランプにイランの核施設を攻撃させることに成功しました。アメリカがはっきりイスラエル側についたので、イランも早期に停戦せざるを得なくなった。(善悪論は抜きにして)勝敗論ではイスラエルの大勝利です。というコメントをみて、「そのとおり!」と思うでしょう。 そんなネタニヤフ、最近トランプを【 ノーベル平和賞 】に推薦しました。
『朝日新聞』7月8日付。『ネタニヤフ氏、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦「次々に平和構築」』
〈トランプ米大統領は7日、イスラエルのネタニヤフ首相とホワイトハウスで会談した。
冒頭、ネタニヤフ氏は報道陣の前で、トランプ氏をノーベル平和賞に推薦したことを明らかにし、選考を担うノルウェー・ノーベル委員会に送った書簡のコピーを手渡した。ネタニヤフ氏は「平和と安全を追求するリーダーシップに感謝と敬意を表する」「次々に平和を築き上げている」などと持ち上げ、「あなたは(ノーベル平和賞の)受賞に値する。受賞すべきだ」と述べた。トランプ氏は「これは知らなかった。特にあなたに言われることにはとても意味がある」と喜んだ。〉
ネタニヤフは、トランプの「本質」をよく理解しています。トランプは、自分が大好きなナルシストで、いつも「自分は一番すばらしい!」と自画自賛しています。自分のことをひたすら褒めまくってくれる人が好きなのです。そして、自分のことをひたすら褒めまくってくれる人のいうことを聞きます。そのことを世界一理解していたのが安倍元総理です。安倍元総理は2016年、トランプが大統領選に勝利した後、真っ先に会いにいきました。そして、トランプの孫が、ピコ太郎さん好きであることなどをネタに出しながら、巧みに心をつかんでいきました。ゴルフも一緒にやり、トランプは、安倍さんのことが大好きになっていきました。
トランプは1期目、世界のほとんどの首脳と、いい関係が築けませんでした。仲が良かったのは、プーチンと金正恩。いわゆる西側陣営では、安倍総理だけです。しかし、これは「トランプが安倍さんと仲よくした」のではなく、安倍さんがトランプに愛されるよう努力したのです。結果、トランプは、日本にそれほど害を加えませんでした。しかも、安倍さんは、トランプから愛されることで、「自立外交」の権利を得たのです。
どういうことでしょうか?安倍さんは、トランプと仲良くしながら、実はトランプのいうことを全然聞かない人でした。たとえば、
・トランプはTPPに反対 安倍さんはTPP支持
・トランプはパリ協定に反対 安倍さんはパリ協定支持
・トランプはイラン核合意に反対 安倍さんはイラン核合意支持
・トランプはWHOに反対 安倍さんはWHO支持
・トランプはエルサレムをイスラエルの首都と認定 安倍さんはこれに反対
これだけトランプの決定に反対しながら、それでも仲がいい。安倍さんは、「愛」によって「自由」を得たのです。安倍やネタニヤフと真逆のアプローチだったのが、ゼレンスキーです。ゼレンスキーは2月28日、トランプとガチで口論をしてしまいました。しかし、その後は、徐々にトランプの操り方を学んでいったようです。トランプとゼレンスキーはその後、4月にバチカンで、6月にオランダで会談しました。そして、7月4日にも電話会談しました。トランプは、ウクライナ支援を再開することで合意。2月の失敗から学んだゼレンスキーは、徐々にトランプの「扱い方」がわかってきたようです。
「反論するな!ほめてほめてほめまくれ!機嫌をよくしてから、謙虚に要求を伝えろ!」今回の石破さんの、トランプへの【 なめられてたまるか!!!! 】これは、【 最悪の発言 】です。
<国民の教訓>
こういう、トランプと安倍さん、ネタニヤフ、ゼレンスキーなどとのやり取りは、私たち国民にも教訓を与えてくれます。私たちはしばしば、「はっきり物をいってくれる人」が大好きです。わかりやすい例は、都知事選で2位につけて世間を驚かせた石丸伸二さんでしょう。石丸伸二さんを一躍有名にしたのは、【 恥を知れ!!!!!!! 】発言です。
私は、石丸さんを批判したいわけではありません。私たちは、「強気の発言」「はっきり物をいう人が大好きなのだ」という例として挙げています。ドラマを見ていても、「やられたらやり返す。倍返しだ!!!」という半沢直樹さんが好き。「私失敗しないので!」の大門未知子先生が大好き。「あ~~すっきりする!!!」ですね。
しかし、現実社会は、そんなに甘くありません。石破さんは、「強気な発言をすれば人気がでるだろう」と思って、【 なめられてたまるか! 】といったのでしょう。こういう発言すれば、人気が出て、トランプも譲歩すると思っているのなら甘すぎです。そして私たちも、「私たちは強気な言動をする人が大好きだが、強気な言動が悲惨な結果につながることもある」ことをしっかり自覚しておく必要があります。
たとえば1933年、国際連盟を脱退して帰国した松岡洋祐は、国民から「お国の英雄」と崇拝され、大人気だったのです。日本は、国際社会で孤立し、大変な時代が来ること、国民は理解していませんでした。
1937年、日中戦争がはじまった時、中国は、アメリカ、イギリス、ソ連3大国から支援を受け、日本と戦っていました。勝てるはずがありません。
私たちは、「大局的」「長期的」「戦略的」に物事を見る必要があります。投票先を選ぶ際も、「この人の演説は強気で、聞いていると気分いいけど、マジでやったらどうなるだろう?」と立ち止まって考えてみる必要があります。
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参院選挙前で政治的なブログ記事が多くなっていますが、今回の選挙は憂国の志を示すのに良い機会です。言いかえれば、いま政治が変わらなければ、これからも変わらないでしょう。日本丸を導いてくれる政党はどれか、政治家は誰か、今一度真剣に考えてみる必要があります。
今回の関税交渉失敗もアメリカを納得させるだけ政治的能力を持った政治家がいなかったことを示しています。また一国の首相が失言で国の取舵を間違えると、とんでもないことになります。迷惑をこうむるのは国民です。この国を導くに相応しい政党は何か。政治家は誰か。真剣に国民は考えなければなりません。それが今です。