#584 新幹線、有明海を走る?

 四月もすでに下旬となり、ゴールデンウィーク中の旅行の予約が昨年以上に増えているそうです。国内や海外旅行もコロナ以前に戻りつつあるとニュースが伝えていました。特に国内旅行は新幹線を利用する場合が多く、短い時間で国内各地に移動することができます。新幹線の存在は国内どこでも気軽に移動できる利便性を与えてくれます。
 ところで新幹線と言えば、現在問題となっているのが西九州(長崎)新幹線です。長崎-武雄間はすでに開通していますが、佐賀県知事はその他のルートについて反対しています。その理由として佐賀県内を通す利点がないことにもかからわず、多額の建設費を負担しなければならないこと。また新幹線開通による在来線の減少など佐賀県にとりメリットがないことです。この点に関して山梨県のリニアモーターカー反対にも似た印象があります。
 ところが、全く発想の異なる誰も考えつかなかった西九州(長崎)新幹線の新しいルートが登場しました。それは有明海を横断するルートです。つまり有明海底トンネルの構想です。この利点は建設に反対している佐賀県を通過しないで、福岡-長崎を結ぶことができる点です。また本州からの旅行客も長崎に直通で行くことができます。次の記事が新ルートの詳細を伝えています。かなり長い記事ですが転載します。なお新ルートの地図は記事のページを参照してください。
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『西九州新幹線「佐賀県を通らないルート」実現可能か?
   有明海ルートで博多~長崎10分短縮…浮上した奇策の経済効果と課題とは』
<佐賀空港案に浮かぶ非効率>
新幹線のルートがなかなか決まらない。この問題は、最近話題になっている北陸新幹線ばかりが注目されているが、西九州新幹線の存在も忘れてはならない。
 福岡都市圏に近い佐賀県が、フル規格での整備に原則反対している。そのため、国は妥協点を探るべく、当初案の佐賀駅ルートのほか、佐賀市北部をかすめるルートや佐賀空港を通るルートなどを示し、佐賀県と協議を続けている。しかし、いまだに合意には至っていない。長崎~武雄温泉間の部分開業から、すでに2年が経過した。
 現在示されているルートのなかでも、特に佐賀空港を経由する案は大きく遠回りになる。そのため、福岡県内からは「筑後船小屋を通せ」という声や、「久留米を通すべきだ」という声が上がっており、誘致合戦が始まりつつある。2024年3月には、福岡県南部の七つの商工会議所が合同で「西九州新幹線福岡県南乗り入れ誘致期成会」を立ち上げた。
 しかし、もともと長崎~武雄温泉間のルートもやや遠回り気味だ。そこからさらに迂回すれば、新幹線というより、もはやお台場の新交通システムやコミュニティーバスのような路線になってしまう。
 そんななか、誰も注目していない不思議なルートがある。市民による自治体への投書や、X(旧ツイッター)上の投稿から見つけた。そのルートとは、佐賀県を通らず「有明海を突っ切る」というものだ。
 この案は、Merkmalの兄弟メディア「乗りものニュース」でも紹介されている。乗りものライターの安藤昌季氏が、「このままでは乗り換えが永久固定… 西九州新幹線を全通させるには “全く別ルート”の方がメリット大?」という記事で取り上げていた。
 今回は筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)なりに、この「有明海ルート」の整備効果と課題を整理したい。既存の西九州新幹線とは切り分け、実質的には長崎県専用の新幹線と位置付ける。そのため、「長崎新幹線有明海ルート」として考えてみる。もちろん、すでに開通している区間や各自治体の負担をどうするかといった議論も含めて考察する。

<1時間半待ち解消の新幹線改革>
 長崎新幹線有明海ルートは、西九州新幹線の諫早駅から分岐し、諫早市東部から有明海を海底トンネルで越え、大牟田市付近で九州新幹線に接続する案である。筆者の考えとしては、既存開業区間がサンクコスト(努力しても回収できないコスト)化するのは避けられないとしても、いくつかのメリットがあると感じている。
 まず最大の利点は、佐賀県の陸地を通らない点だ。このため、佐賀県内に並行在来線の問題が生じない。そもそも現在の武雄温泉~新鳥栖間にしても、佐世保行きの特急が走っている以上、経営分離されるかどうかは怪しい。
 仮に有明海ルートが開業しても、西九州新幹線が存続すれば、佐賀駅へのアクセスのためにリレーかもめは残る可能性が高い。本数は減るかもしれないが、在来線そのものは維持されるだろう。
 ここまでは佐賀県側のメリットだが、有明海の対岸、福岡県側にも大きな利点がある。大牟田駅は、九州新幹線の開業によって特急停車駅としての地位を失い、利便性が大きく低下した。現在は市郊外にある新大牟田駅を使う必要があり、しかも日中は1時間半に1本しか新幹線が停まらない。
 長崎新幹線有明海ルートが実現すれば、大牟田駅に新幹線を通すことが可能となり、かつての特急停車駅としての地位を取り戻すことができる。大牟田での乗り換えによって、隣接する熊本県荒尾市の住民も恩恵を受けるはずだ。
 さらに、現在誘致合戦が進む筑後船小屋駅や久留米駅もルートに組み込める。これにより、久留米や久大本線沿線から長崎へのアクセスが向上する。加えて、博多~筑後船小屋間の運行本数が増えることも期待できる。これらは従来の佐賀駅ルートでは得られなかったメリットである。

<未開発地を活かす長里案>
 Xにはさまざまな案が投稿されている。それらと現地の地形や海底の状況を照らし合わせ、ひとつの案にまとめてみた。
 まず、諫早駅からの分岐は、駅の北側1km付近で分かれる。西九州新幹線の運行本数は、おそらく2時間に1本程度に加え、大村車両基地への回送列車くらいだろう。そのため、建設費が安く済む平面交差での分岐で問題ないと考えられる。
 そこから東へ約13km進んだ場所にある長里駅の併設地に、新駅を設ける。この新駅については、小長井駅に設置してトンネルに入る案も多く見られた。Xの投稿や安藤氏の記事でも支持されている。しかし、長里駅周辺には広大な未開発地がある。また、高架から海底へ向けての勾配に余裕を持たせやすい点でも、長里駅の方が有望と見た。
 長里駅の東約200mの地点から、有明海トンネルの掘削を始める。「トマトのバス停大久保」付近から海底に入る計画だ。有明海の水深は平均で10m程度。深い場所でも20mにとどまる。この区間19.4kmには沈埋(ちんまい)トンネル工法が使える。
 沈埋トンネルとは、箱型のトンネルを陸上で製作し、それを海面に浮かべて船で運び、海底に掘った溝に沈めてつなぐ工法である。りんかい線の台場トンネルも、水深25mの海底に同様の方法で建設された。詳しくは鉄道・運輸機構のYouTubeにある施工記録の動画を参照するとよい。
 この沈埋トンネルで有明海を横断し、福岡県側の陸地に上陸する。そこから北へ緩やかなカーブで進み、JR鹿児島本線と合流するあたりで、全長28.3kmのトンネルを抜け、地上に出る。そして大牟田駅に至る。新駅は在来線の留置線がある敷地に地平駅として設置される見込みだ。
 大牟田駅を出ると、高架に上がって進む。西鉄東甘木駅付近から、九州新幹線に向けて分岐していく。しばらく進むと、新大牟田~筑後船小屋間にある「新みやまき電区分所」が見えてくる。このあたりで新幹線と合流できる可能性がある。大牟田駅からの距離は8.5km。筑後船小屋駅からは9.1kmの地点だ。

<51.7km新設に見る現実解>
建設距離はどうなるか。諫早駅を起点の0kmとすると、長里駅までは14.5km。大牟田駅までは44.2km。新幹線と合流する地点までは52.7kmになる。諫早駅付近では1kmほどを既存線と共用できるため、実質の新設区間は51.7kmほどと見られる。

 現在検討中の武雄温泉~新鳥栖間(佐賀駅ルート)は、全長およそ50kmとされている。今回の案はそれより1.5km長いだけだ。
 ただし、長崎~博多間の総延長で見ると、現行案では約142km。一方、有明海ルートを採用すれば131.0kmとなり、約11km短くなる。さらに、佐賀駅を経由しないため、速達列車の停車駅が減る。所要時間の短縮にもつながる可能性がある。

<所要時間はどうなるか>
 佐賀県の陸地を通らず、長崎~博多間の距離も短くなるのが、長崎新幹線有明海ルートだ。では、所要時間はどうなるのか。以下の条件で試算した。
1.標準の運転速度は秒速70m(時速252km)で計算。
2.発車時の加速と停車時の減速は、それぞれ1回につき1.5分加える。ただし、低速走行区間である博多駅と諫早駅は1分加算とした。
3.博多~久留米間は、博多総合車両基地の分岐部から博多側を秒速30m、久留米側を平均秒速50mで計算。
4.九州新幹線との合流部は160km/h制限と想定し、減速による1分を加算。
5.諫早駅付近の曲線半径700m区間は110km/h制限とし、ここでも1分の減速を加算。
6.山陽新幹線内は「みずほ」の最速所要時間を基準とする。新大阪~博多間は2時間24分で、博多停車に2分を加える。
 この条件で計算したところ、博多~長崎間をノンストップで走行すれば41分となる。現在検討中の佐賀駅経由案は51分なので、10分の短縮となる。長崎~久留米間は30分。利便性の高さがうかがえる。博多~大牟田間も24分。仮に、往復乗車券相当額の「2枚きっぷ」が同区間で発売されれば、西鉄から乗客を奪い返す可能性もある。このほか、主な区間の所要時間は以下の通り。

・長崎~新大阪:3時間6分
・長崎~岡山:2時間22分
・長崎~広島:1時間46分
・長崎~大牟田:20分
・諫早~新大阪:3時間0分
・諫早~博多:35分
・諫早~久留米:23分
・大牟田~新大阪:2時間47分

<海上区間の費用負担問題>
 佐賀県の「陸上を通らない」という表現には理由がある。実際、有明海ルートでも海上で10kmほど佐賀県を通過する。しかし、海上ならトンネル出入口がある県だけで建設費を折半するのではないかという疑問があるだろう。そこで、海上で県境を二度通過する場合の建設費負担について、国土交通省鉄道局幹線鉄道課に問い合わせてみた。

●質問
「整備新幹線の建設に関して、海上を通過する場合、海上にも県境があると思うが、例えばA県→C県に通したいときに、間にちょっとだけB県を通過する場合にB県にも建設費負担は発生するのか」

●回答
「ご案内のように、全国新幹線鉄道整備法上、整備新幹線の建設費の地方負担については、「当該新幹線鉄道の存する都道府県」が負担することとされています。前例もなく個別具体の状況がぱっと思い当たらないので具体的なお答えはできかねますが、この法律に基づき対応していくものと考えております」

 つまり、海上を通過する部分でも、その費用は佐賀県が負担することになるようだ。解決策としては、県境を変更するか、佐賀県区間を長崎県が負担する形にする方法が考えられる。しかし、有明海ルート全線の建設費は、フリーゲージトレインを前提に計画されたものであり、国の責任で負担すべきではないだろうか。
 なお、大牟田~合流地点の8.5kmについては、福岡県と熊本県の荒尾市にメリットがあるため、負担を求めても良いだろう。

<長崎新幹線にともなう路線再編>
 長崎新幹線有明海ルートが完成すれば、博多~長崎のメインルートはそちらに移る。そうなると、既存の西九州新幹線諫早~武雄温泉間はどう扱うかという問題が出てくる。
 筆者は、本数は減るかもしれないが、これを残すべきだと考えている。新大村駅近くには車両基地があり、回送や通勤利用を目的とした便の運行もできる。また、長崎~佐賀間の利用者にも必要だろう。西九州新幹線の名前のままで運営し、長崎新幹線と区別するのがよい。特に、鉄道空白地帯だった嬉野温泉には不可欠な路線だ。
 ただし、武雄温泉での乗り換えがあるため、レールを追加して在来線特急が乗り入れるようにするという要望が出るかもしれない。それが実現すれば、中速鉄道としても活用可能だ。

<税金負担者の発言権>
 今回のテーマは賛否が分かれる内容だったと思うが、新幹線は最短ルートで結ぶのが最善だ。筆者のように
「東京の人間が長崎・佐賀の鉄道に口を出すな」という批判が出るかもしれないが、新幹線建設費には東京を含む国民の税金が使われている。
 だからこそ、東京の人間にも発言権がある。そういった意味で、本稿を通じて一石を投じた。関係者には、ルートの比較検討をぜひ行ってほしい。最後に付録・計算メモ(下記時間に発車・停車ごとに1~1分半加算)を記す。

・長崎~諫早間:21.3km
→ 秒速70m + 徐行加算1分 = 6分00秒

・諫早~長里間:14.5km
→ 秒速70m + 徐行加算1分 = 4分30秒

・長里~大牟田間:29.7km
→ 秒速70m = 7分00秒

・大牟田~合流地点:8.5km
・大牟田~筑後船小屋間:17.6km
→ 秒速70m + 徐行加算50秒 = 5分00秒

・筑後船小屋~久留米間:15.9km
→ 秒速70m + 余裕加算10秒 = 4分00秒

・久留米~新鳥栖間:5.7km
→ 秒速50m + 余裕加算5秒 = 2分00秒

・新鳥栖~車両基地合流部間:18.8km
→ 秒速50m = 6分15秒

・車両基地合流部~博多間:7.5km
→ 秒速30m + 余裕加算5秒 = 4分15秒

・長崎~博多間:131.0km・39分00秒 → 41分30秒
(現行計画では約142km・51分)
https://merkmal-biz.jp/post/90756

なお、ルート地図は次のページを参照してください。
https://merkmal-biz.jp/photo/90756#photo4
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 現状のルートでは、いつまでも埒があかない可能性があります。言いかえれば佐賀県が妥協しない限り、何年も、いや何十年も西九州(長崎)新幹線は開通しないでしょう。そこで有明海ルートを提示することで、佐賀県が従来のルートを承認する可能性があります。たとえ佐賀県が承認しなくても、有明海ルートが実現できる可能性もあります。個人的には有明海ルートができれば大牟田市とその周辺の市町村は様々な意味で恩恵を受けます。西九州(長崎)新幹線ルートに関して早急な解決法が必要です。そうしないとリニアモーターカーの二の舞になりかねません。重要な路線に関してはもっと国がリーダーシップを取り進める必要があります。何のための国土交通省でしょうか。政治家は自分の利益のためではなく、国全体の利益のために汗をかくべきです。

2025年04月20日