#481 週休3日制

 昨日からゴールデンウィークが始まり、5月1日、2日を休みますと9連休になります。またコロナが落ち着きを見せており、行楽地はコロナ前の賑わいを見せています。さらに海外からの観光客も増えており、特に東京の宿泊施設は予約が取れない状況が続いています。旅行業界にとって嬉しいことですが、オーバーツーリング(観光客の増えすぎ)の懸念もあります。観光客の異常な増加もそこで暮らしている地元の人々にとっては考えものです。
 ところで、最近話題になっているのは「週休3日制」の導入です。ひと昔の日本では考えられなかったことですが、公務員を中心に真剣に導入を考慮しているようです。その一因として人口の減少により、自治体や民間企業で必要な人員の採用不足があるようです。そのような状況下で1年前の記事ですがDIAMOND online に面白い記事がありましたので、かなりの長文ですが転載します。
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『週休3日制が定着したら「損する人」も、得する人との運命を分けるものは?』
<「週休3日制」で日本の生活は良くなるのか?>
 4月18日にパナソニックホールディングスが、2022年度内に週休3日制の試験導入を開始すると発表しました。欧州企業では導入が目立つ週休3日制ですが、いよいよ日本でも本格的に取り入れられることになるのでしょうか。
 すでに日本の大手企業では昨年、みずほフィナンシャルグループが週休3~4日の社員制度を導入したほか、複数の大企業でも導入の動きがあります。一方で「試験的」や「業務によって」といった制限がある企業が多く、企業内のすべての職場が週休3日になるイメージがまだ湧かないという意見もあります。
 海外の事例を見ると、週休3日制を本格導入するやり方には2通りあるようです。一つは1日の労働時間が同じで単純に週4日勤務になる方式で、要するにフルタイム勤務では週40時間から32時間に業務時間が減る形です。
 もう一つが、1日の労働時間を10時間に増やしたうえで週休3日にするケースです。8時間労働で週5日働く場合と、10時間労働で週4日働く場合のどちらも、1週間の労働時間は変わらず40時間になります。さて、週休3日制の導入と聞くと、一般的に次の三つの心配が頭をよぎるようです。

   (1)そもそも、そんな働き方が自分の職場で成立するのか?
   (2)仕事が今よりも大変になるのではないか?
   (3)週休3日になることで、収入が今よりも減るのではないか?

 週休3日制が導入されると、わたしたちの生活は今よりも良くなるのでしょうか? それとも、上記の不安が現実化する悪夢が待っているのでしょうか? 今回はそのことについて考察してみたいと思います。
 ちなみに先に私の見立てをお伝えしておくと、一部の懸念は悪い方に現実化すると思いますが、日本人にとっては良い結果になることも多いのがこの週休3日制だと考えます。

<週休3日制で追い詰められるのは部下ではなく、実は上司>
 さて私が知っている欧州の会社の場合、週休3日制で週40時間労働に切り替えたことで、朝7時に勤務開始時間が早まって退社時刻はこれまでと変わらない形になりました。この方式だと、冬の場合まだ周囲が暗いうちから社内会議が始まることになります。しかし、やってみた本人から見ると、一日10時間勤務自体はそれほど負担ではないと言います。
 私が聞いた話をまとめると、これまでと勤務時間は変わらない。ただ全体的に生産性は良くなったというのです。
 理由は二つあって、一つは週末に子どもや家族、友人などと過ごせる日が1日増えたことで精神面のゆとりができたことと、会社全体で無駄な仕事を減らす方向に力学が働くことになったからだといいます。
 前者は分かります。後者について補足すると、要するに週4日で業務を終わらせなければならない状況から、残業のマージン(余地)のようなものが減ったそうです。そのため、一人一人が生産性をより強く意識するようになったということらしいです。
 この話は、1番目の「そもそもうちの職場でそんな働き方が成立するか?」という疑問への答えにもなっています。
 無駄な会議が多く、だらだらと働く人が多い職場。そのうえ、上司が部下が残業を断れないのを前提に仕事を振って、「明日の朝までにこの資料仕上げておいて」みたいに無茶な指示を出す職場なら、週休3日制など一見導入できないかもしれないと最初は思うでしょう。
 しかし、週休3日制を会社が導入すると決めると、実は追い詰められるのは上司の側です。「少ない時間で同じ量の業務をどのように終わらせるか」を考えなければいけないのは上司だからです。すると、無駄な会議を続けていたり、手戻りが起きたりするような無茶な指示をなるべく出さないようにしなければいけなくなる。
 結果的にそれが働き方改革を促す圧力になるという点で、「そもそも週休3日なんて成立しない」と思える会社でも制度を変える意味は出てくるようです。

<日本人は世界と比べて長く働き、生産性が低い>
 このように週休3日制を働き方改革と一体で捉えると、そもそもの問題点も見えてきます。OECDが公表している先進国同士の労働時間の横比較(2020年調査)を見ると、日本人男性の1週間の労働時間は53時間と他の国よりも飛び抜けて多いことが分かります。
 冒頭で「1日8時間で5日間働くと週40時間労働」という話をしましたが、先進国はおおむね、この水準よりも少ない労働時間に収まっています。アメリカが週37時間、ドイツが週34時間、フランスが週27時間という具合です。
 ちなみに、「なぜ男性の労働時間で比較するの?」という疑問が湧くかもしれません。実はわが国では男女の間で労働環境に大きな差があります。統計を取ると女性のパート比率が非常に高く、そのうえ税法や社会保障制度に起因する「103万円の壁」や「130万円の壁」が存在するせいで、女性の労働時間が欧米よりもずっと短くなるのです。
 そのことで結果として、男女平均を取るとOECD加盟国間の横比較でもそれほど恥ずかしい数字にならなくなるというからくりがあるので、男性だけの労働時間を比較しないと日本のフルタイム従業員の労働環境の実態が見えてこないのです。
 そして、週当たりの労働時間の逆数をとると、今度は加盟国間の生産性の違いが見えてきます。アメリカは日本よりも労働生産性が1.4倍高い、ドイツは1.6倍高い、フランスは1.9倍高いということが数字から見えるのです。仕事に勤勉なドイツ人が日本よりも1.6倍生産性が高いという数字に、日本人は大いに反省すべきでしょう。

<日本が週休3日制に踏み切るには「外圧」が必要>
 このOECDの横比較から、日本企業は生産性を上げる余地がまだかなりあるということが分かります。背景として、日本にはそもそも無駄な会議や無駄な仕事に問題意識を持たない社会文化があります。さらに、デジタルに疎い経営者や管理職が多いという実態もある。これらを打破するには、制度そのものを変えていかなければならないという制約があります。だからこそ、状況を変えるには外圧が有効です。
 コロナ禍で日本企業が一斉にリモートワークを導入できたのはこの外圧で、もしコロナがなければ今でもほとんどの企業では管理職が、「zoom会議? だめだめそんなもの。会議は会議室でやるものだ」と主張していたことでしょう。日本政府や経団連のような組織が「週休3日制に踏み切る」と圧力をかければ、各企業も真剣に週休3日が成立できるように頭をひねらなければならなくなります。週休3日制が外圧になれば、日本の職場は変わらざるをえないのです。
<のんびり働いていた企業は仕事内容が厳しくなる>
 さて、ここまでは良いことばかりですが、不安も残ります。そしてそれらの不安の一部は現実化するでしょう。
 まず2番目の懸念ですが、これまでのんびりと仕事ができていた企業では、生産性が上がることで仕事の内容が厳しくなる可能性があります。
 古い話なのでできれば笑い話として聞いていただきたいのですが、1987年にJRが誕生した当時、JRの社員の方が、「いやあ大変です。国鉄時代の3倍も働いていますよ」とおっしゃっていました。しかし、コンサルが調べてみたら、民営化後も私鉄とは生産性が倍違っていた。本当は6倍忙しくなる余地があったのに、大組織の内部にいるとそれに気づかないものです。
 週休3日制導入の裏の効果が生産性向上であるとすれば、当然、業務が効率化していく方向に力が働きます。会議の出席者数は本来必要な人だけに減るでしょうし、無駄な書類は作らないようになるわけです。
 それは会社にとっては良いことなのですが、実はこれまで無駄な会議で発言もせずに座っていることが許されていた人は、「会議に出ずに他の仕事をちゃんとしろ」と命令されることになるわけで、当然仕事は以前よりもきつくなります。つまり、組織全体で「なんとか週4日間働いて家に帰ろう」とする未来では、当然のように今よりも仕事の密度は上がるのです。

<週休3日制で「収入減の未来」がやってくるかもしれない理由>
 もうひとつの懸念が「週休3日制だと収入が減るのではないか?」というものですが、これも実は懸念通りの未来がやってくる可能性があります。そもそもの世界経済の大問題として、AIが進化することでDXが進み、人間のすべき仕事が減少していくという未来予測が存在します。
 これは経済学的には、ある会社での仕事は減るだろうけれども、イノベーションが起きることで別の産業が勃興してそちらで新しい仕事が生まれると説明されます。しかしそれを労働という側面で見れば、既存の勤務先では仕事が減るので、他の副業を見つけなければいけない未来がやってくることを意味します。
 日本の労働法規では、一度雇用した正社員はクビにすることができません。多くの大企業が中高年の社員をリストラしたほうが利益は上がると分かっていても、会社が傾かない限りはそこに踏み込めないのは法律の壁があるからです。
 ところが、勤務時間を減らすだけなら実質的なリストラ効果が生まれる可能性があります。これまで週40時間働いていた正社員の勤務時間の定義を、週32時間に変更することで給与水準を20%カットできる可能性が出てくるわけです。
 このあたりの議論はこの先、どのような法律にすべきかが国会でも議論されていくことでしょう。ただ企業の競争力ということを考えると、この問題についてはある程度、大企業側の要望を社会は受け入れざるをえないのではないでしょうか。
 最後に、一部の日本人にとっては都合が悪い話をして終わりましょう。実はOECDの労働時間比較には、家事にどれだけ時間を費やしているのかの横比較も存在しています。日本人男性の場合、会社で勤務する時間が長すぎる関係で、先進国の比較で見ると圧倒的に家事を手伝っていない傾向が見られます。
 もし週休3日制が定着すると、もうそんなことは許されないでしょう。「家事は家族で分担する仕事」という、当たり前の未来も到来する。それが週休3日制の日本社会に対する一番の貢献になるのかもしれません。
https://diamond.jp/articles/-/302449
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 日本人にとって「週休3日制」は「働くとは何か」という命題を提起させる内容です。欧米社会では「労働」は生活費を稼ぐための手段であり、「労働時間は短く、収入は多く」が当然です。しかし従来の日本人は「仕事を通して自己研磨する」という考えがあり、ただ収入を得るだけでなく、仕事を通して自分を磨く意味合いがあります。
 そこに日本人の勤勉な性格が表れていますが、日本が欧米社会のようにバカンス中心の世の中になれば、今以上に生産性が低下し、ますます先進諸国から取り残されて、さらに貧困国になり下がってしまうでしょう。
 果たして「週休3日制」が日本社会にふさわしいか否かは私たちにとって大きな課題となるでしょう。政府もリスキリング(副業のための技能を身につけること)を提唱し始めていますが、「週休3日制」への布石だと考えざるを得ません。企業側も副業を認めることで、「週休3日制」を導入しながら、従業員の賃金を抑制できるので、一石二鳥となるのではと危惧します。「週休3日制」がこの国に必要か否かは国民全体のコンセンサス(同意)が必要となることでしょう。

2023年04月30日