#657 日本沈没
夏の終わりが近づき、あと10日もすれば9月がやってきます。日中はまだ猛暑が続いていますが、夜半や早朝は過ごしやすい頃となってきました。また夜には秋の虫が少しずつ鳴き始めています。空に目を向けると入道雲と秋の筋雲が混ざり合って季節の変わり目を表しています。
さて小松左京の「日本沈没」というSF小説が流行った時代がありました。地殻変動により日本列島が大海原に沈むという物語です。映画にもなり、1973年版と2006年版があります。またテレビドラマも2021年に放送されています。1973年版では日本列島が完全に沈み、日本人が世界中に散らばっていく場面で映画が終わっています。2006年版では日本列島は完全に沈没せずに、北海道や一部の地域が残る状態で映画が終了しています。このような日本列島が沈むような地殻変動が近い将来実際起こるでしょうか。日本だけでなく世界中で大地震が頻発している昨今ですが、本日は「日本沈没」に関する記事をお伝えします。
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『京大名誉教授が教える「日本沈没」は地球科学的には正しい。
そして、もっと「気をつけるべきこと」とは?』
東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』から一部を紹介します。
<日本沈没は本当に起こる?>
――鎌田先生は将来、ドラマのように日本が沈没すると思いますか?
ここでいうドラマは『日本沈没-希望のひと-』(2021年にTBS系列で放送)のことですね。これは小松左京さんのSF小説が原作です。先に答えからいうと、日本列島は沈没しません。ただ、現象としては日本列島が沈没するかのようなことがゆっくりと起きています。
どういうことかというと、ドラマの『日本沈没』は、いま実際に起きているプレート・テクトニクスを早回しにしているんです。動画の100倍の早回しみたいに。そんな時間軸なら、日本列島は沈没するし、あのようなすごいカタストロフィが起こるでしょう。つまり映画やドラマに合うビジュアルになるわけです。
でも、日本列島は沈没しないですね。なぜならばとてもゆっくり動いているから。先ほども言ったけれど、太平洋プレートが大陸プレートに沈み込むペースは年間で8センチメートルです。でも、それが100倍速くなると日本列島が沈没します。
この作品は、僕の先生にあたる東京大学の地球物理学教授の竹内均先生がブレーンになっていて、竹内先生は1973年に『日本沈没』がはじめて映画化されたときにも出演しています。ご本人の役ということで、面白い設定ですよね。
<定性的と定量的>
竹内先生が監修していることからもわかるように、『日本沈没』は地球科学的には正しい。正確に表現すると「定性的」には正しいと言えます。定性的とは、数値化できるかどうかは別にして性質に注目する考え方です。この『日本沈没』の場合はプレートが沈み込むという性質の面では正しいんです。実際に同じことが起きている。これは「物理モデル」です。
一方で、定性的と対になる言葉として「定量的」があります。定量的は事象を数値や数量に着目してとらえることで、この『日本沈没』の場合は時間のスケールが違う。この定性的と定量的という二つの考え方も、地球科学の重要なキーワードです。それで定量的に違うと、まるきり違う現象が起きるんです。
たとえば、いま地球には地殻があって、マントルがあって、核があるという構造をしています。それでマントルのなかも核のなかも対流している。それは1億年という周期で、僕たちはなかなか実感できない。でも、鍋でお湯を沸かしたら5分で沸いて、なかのお湯はグルグル対流するのを自分の目で確認できますよね?
こういう話です。
<「長尺の目」で世界を見る>
つまり時間を含めて量という考え方が加わると世界が変わるのです。普段、僕たちは経済活動をしていて、たとえば会社では四半期という言葉を使いますね。「3か月ごとの業績が……」とか。
一方、地球科学ではマントルの対流の周期が1億年、火山の寿命が1万年という世界を考えています。時間軸が長い方向にずれています。この長い尺度の目、「長尺の目」で見るとまったく違った世界が見えるんですよ。こういう視座はやはり地球科学が教えてくれることなんですよね。そして僕はその新しい見方を伝えたいのです。
もう一つ、『日本沈没』に登場する言葉で押さえておきたいものがあります。それは「スロースリップ」ね。 物語のなかでは、地震学者が「スロースリップが日本沈没の予兆だ」と主張しています。スロースリップは「ゆっくりすべり」ともいいます。プレートが跳ね返るなど大きな動きをするときに地震は起きるけれど、その際に地震をともなわないのがスロースリップです。
結論をいうとスロースリップは現実に則っています。だけど、あんなに頻繁には起きていない。ドラマ性を持たせるために速度や規模を100倍あるいは1000倍にしているんですよね。
<本当の「日本沈没」とは>
実際にはたまにしか起きないんですが、現象として間違っていない。こうして見ると、やはりどの『日本沈没』もよくできています。だからドラマや映画を見るだけでいい勉強になりますよね。
実際に国土は沈没こそしないけれど、たとえばこれから起こるとされている南海トラフ巨大地震は220兆円、首都直下地震は95兆円、富士山噴火は2.5兆円という、とてつもなく大きな額の被害が出ると試算されています。しかも、震災後の20年間の総被害額は10倍以上(土木学会試算で1410兆円)になる可能性もあって、それらを全部合わせると日本の国家予算の10年分にも相当します。
すると、財政的に日本は立ち行かなくなりますよね。これこそがまさに日本沈没です。ただ、南海トラフ巨大地震などの大きな災害はいまから準備すると、経済被害を8割も減らすことができる。よって日本沈没をいかに食い止めるか。それができるのは地球科学の知識なんですよね。
<「科学の知」を活きた知識に――著者より>
最近の日本では地震や噴火がとても多い。皆が不安を抱いている一方、これが2011年に起きた東日本大震災(いわゆる「3.11」)と関係があることを知る人は少ないのが実情です。
本書でも解説したように、地震と噴火が頻発するのは「3.11」によって地盤に加えられた歪みを徐々に解消しようとしているからです。日本列島は千年ぶりの「大地変動の時代」がはじまったため、今後の数十年は地震と噴火は止むことはない、というのが私たち専門家の見解なのです。
これに加えて、近い将来に6800万人を巻き込む激甚災害が控えています。首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山など活火山の噴火が、いずれもスタンバイ状態にあります。こうした喫緊の事実を高校で学ぶ機会がなくなったことは、国民的損失以外のなにものでもないのです。
そこで私は「いまからでも決して遅くない」と説きます。それには先達がいたのです。約150年前の明治初期、福沢諭吉は『学問のすゝめ』を刊行しました(初版1872年)。欧米の近代的思想を身につけ、自覚ある市民として意識改革することを力説した名著ですが、文章は平易にして情熱に満ちており全国民の10人に1人が買ったといいます。私の気持ちも福沢とまったく同一です。すなわち、いまから約十年後に迫る南海トラフ巨大地震=「西日本大震災」から、「地学」の力で1人でも多くの命を救いたいからです。
もう一つ、地学は「おもしろくて、ためになる」科目でもあります。このフレーズは戦前に雑誌『キング』『少年倶楽部』を出版した講談社がつくったものです。私もその方針で本書を執筆し、文系読者が苦手な数式や化学式をほとんど用いませんでした。
実は、世の中にはためにはなっても面白く読めない理系本が多いのですが、そもそも学校に憂鬱な思い出しかないのは、「たしかにためにはなるかもしれないが、全然面白くなかった」からではないでしょうか。ここを打破しようと、私は教室で真っ赤な革ジャンを着てマグマを語り、横書きの学術論文から縦書きのサイエンス入門書へと発信メディアを変えました。
通例、大学の理系科目では数式が並ぶ横書きの教科書を使いますが、それでは初学者の興味をつなぐことは難しいからです。結果は上々で、閑古鳥が鳴いていた講義は立ち見が出るまでになりました。そして自称「科学の伝道師」が誕生。京大で教えるようになってから24年間、「ヘンな教授」で押し通してきたのです。
とはいえ、私はなにも使命感に燃えているだけの地学者ではありません。そもそも私が地学に惹かれたのは、25歳の駆け出し研究者のころ、地球の美しさに心底、感動したからです。広々とした九州の火山で、風を感じ、土の匂いを嗅ぎ、大地を直接肌で受けとめながら山をひたすら歩きまわっていました。五感のすべてを使いながら地球の成り立ちに考えをめぐらすことには、なにものにも代えがたい心地よさがあったのです。「地学を一生続けていきたい!」と思った瞬間でもあります。そうした地学という学問そのものの魅力も、本書でみなさんに伝えたいのです。
鎌田浩毅(かまた・ひろき)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。
https://diamond.jp/articles/-/396695
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先日鎌田先生の『大人のための地学の教室』を購入しました。素人が読んでも面白く、分かりやすく書かれています。また鎌田先生は「南海トラフ地震・富士山噴火との関係」をYouTubeで解説していた時に、先日の熊本地震が発生し、急遽この地震の解説をされた映像があります。興味がある方はご覧ください。収録時間は約45分です。後半部分に今回の熊本地震の解説があります。地震と火山の関係は密接で、地震活動の後に火山が噴火する傾向にあります。現在阿蘇山の噴火警戒レベルが3になり、警戒が続いています。念のために注意する必要があるでしょう。
【鎌田浩毅の緊急解説】収録中に「令和8年熊本地震」発生…10年前の地震は終わっていない?
/南海トラフ地震・富士山噴火との関係/
https://www.youtube.com/watch?v=LV4lE9QIQ04